献身の証し…

Testimony


 私は仏教を信じる家庭に生まれ育ちました。私が高校生の頃、父は独立して雑貨卸の自営業を始めました。最初はよかったようですが、すぐにバブル崩壊の影響を受け、会社は大変な借金を抱えることになりました。それでも朝から晩まで一所懸命に働く両親の力になりたいと思い、私も父の会社を手伝うことを決めました。しかし、景気の冷え込みは激しくなる一方で、経営は困難を極め、次第に家族の中の雰囲気も悪くなり、私は心身ともに疲れ果てていきました。そんな時、私は得意先であるクリスチャンと出会い、彼女を通して教会へ導かれ、聖書にふれ、イエス・キリストを知りました。初めのうちは聖書のことも神さまのことも何もわかりませんでしたが、一年が過ぎたあたりから信仰決心に導かれ、多くの方々の祈りにも支えられ、洗礼の恵みにあずかりました。家族の反応は冷ややかでしたが、私は自分の人生をこの方にお捧げしたいと思いました。

 それからしばらくして、ある青年との出会いと別れが、私の人生を大きく変えました。彼は心の病を抱えた青年でしたが、教会の交わりの中で不思議と変えられていく姿を見て、彼を通して生きて働かれる神の御業を見ました。しかし、そんな彼との別れは突然訪れました…。納得できない思いを抱えながら、私は彼の葬儀で想い出を語らせていただきました。その時、「あなたがたは心を騒がせてはならない…」という御言葉から、彼が今あらゆる苦しみから解放されて、天国のイエスさまの懐にいることを確信しました。そして、彼の葬儀の中で、私は「鋤に手をかけてから…」という御言葉を示され、洗礼の時に漠然と感じた献身の思いが、強く心に迫ってきました。未信者の両親には猛反対されましたが、自分の真剣な気持ちを伝え続け、その二年後に仕事を辞め、妻にも納得してもらい、東京基督教大学で学ぶ道が開かれたのです。

 私は一心不乱に神学を学びました。子どもの頃から両親に心配ばかりかけて、親孝行らしいことも何もできていなかったので、少しでも良い牧師になって両親を安心させたいという思いがありました。しかし、そんな私の願いは儚く消えました。私が神学校三年目の秋に父は自死を選びました。変わり果ててしまった父の姿を見ながら、聖書を破り捨て、もう祈れない、神などいるはずがない…と思いました。そんな塞ぎ込む私の心に御言葉が響いてきました。「しかし、わたしはあなたのために、あなたの信仰がなくならないように祈りました。ですから、あなたは立ち直ったら、兄弟たちを力づけてやりなさい。」…不思議な体験でした。もちろんそれは肉声ではありませんが、確かにイエスさまの語りかけでした。イエスさまが私のために、私の信仰がなくならないように祈っていてくださる…それがわかった時、涙が止まらなくなりました。そして、立ち直ったら…という御言葉に応えさせて頂いて、こんな者でも主がお入用になるならと再献身をしたのです。

 あれから十数年。今も心の傷は残っていますが、イエスさまの身代わりの死の意味を、父の死を通して深く考えさせられています。私の父は真面目で、責任感が強く、厳しさと優しさに溢れる人でした。きっと家族に重荷を背負わせたくないと思ったのでしょう。『わたしはあなたのためにこのことをした。あなたはわたしのために何をしたか…』というイエスさまの十字架が迫ってきます。いつか天国でイエスさまと父に会った時、「よくやった」と言ってもらえるように、今を生きたいと思っています。自分に何ができるかわかりませんが、確かなことは、イエスさまが私を用いてくださること、そのために最善の道を備えてくださることです。ですから今は、「主よ、なぜですか…」ではなく、「主よ、ここに私がおります。私を遣わしてください」という思いで、主のとりなしの祈りに支えられて、福音を、言葉で、態度で、生き方で、一人でも多くの方にお伝えしていきたい…そう強く思わされています。ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

2020年4月

山下 亘